2016年 5月1日〜15日
4月1日  フィル〔調教ゲーム〕

「夜です。皆、目を閉じて。占い師だけ起きてくれ」

 リアンが目を開けた。

「誰を占うか指さして」

 リアンはコスタを示した。
 コスタは『人間』とカードを出す。

「じゃ、占い師は目を閉じて。次、狼は目を開けてくれ」

 エリックとジルが目をあけた。

「……」

 ふたりは睨み合い、いやな顔をしてぼくを見た。

(いや、こっちを見るな。作戦会議しろよ)

 エリックがしぶしぶ指で自分を示した。しゃべるように手をひらく。自分が撹乱工作に出るようだ。ジルは憮然とそれを眺め、軽くうなずいた。


4月2日 フィル〔調教ゲーム〕

「――わんわん村に朝が来た。おはよう。全員目を開けて。中庭には可愛そうなフィルの死骸が転がっている。みんなで人狼が誰か推理して吊ってくれ」

 コスタが真っ先に言う。

「人狼っぽいやつを探すんだよな。ヒントは?」

「……」

 ミハイルが教えた。

「占い師が誰かひとり占ってるはずだが、……占い師は名乗り出ないようだな」

 エリックも言う。

「占いは人狼に一番狙われやすいからな」

 リアンが眉をあげ、

「でも、狩人ってのが守ればいいんだろ?」


5月3日  フィル〔調教ゲーム〕

 ロビンは言った。

「名乗り出るよ。おれが占い師だ。狩人さん、おれを守ってくれよ。昨日はキースを占った。人狼だった」

 おい、とジルが眉をひそめた。

「人狼がわかっていて黙っていようとしたのか」

「いや、ニセモノを待ってたのさ。一網打尽にできるだろ。でも、今回の敵には度胸はないみたいだね。今日はキースを吊ろう。狼はあと一匹だ」

 キースが声をはげまして言った。

「おれは本当に人狼じゃない」

「みんなそう言うんだ」

「――」

 エリックが手をあげた。

「キースを吊ってみよう。おれが霊媒だ」


5月4日 フィル〔調教ゲーム〕

 エリックは言った。

「キースを吊ってみて白だったら、ロビンは嘘つきだ。人狼か狂人だ」

 ヒロは目をしばたいた。

「……なるほど」

 アンディはぽかんとしている。早くやろ、とコスタは採決をせかした。

「考えてもよくわかんないよ。吊ってみようぜ」

 ぼくは苦笑した。まあ、一度、やってみないとわからないだろう。結果、キースの処刑が決まった。

「じゃ、夜が来た。みんな寝てくれ。――霊媒、起きてくれ」

 霊媒はヒロだった。ぼけっと見ているだけかと思ったが、考えがあって黙っていたようだ。


5月5日 フィル〔調教ゲーム〕

「昨日処刑されたキースは、これだ」

 『人間』の札を見せる。ヒロは軽くうなずいた。

「はい。目を閉じて。――続いて占い師」

 真の占い師、リアンがこちらを見た。彼はエリックを指さした。
 ぼくは『人狼』のカードを上げた。

「占い師は目を閉じて。――次、狩人」

 パッとコスタが目を開いた。ぼくは黙れ、と制し、

「保護したい人間を指さして」

 コスタは素直にニセ占い師のロビンを示した。ほほえましい。

「了解。じゃ、目を閉じてくれ。――狼たち、仕事の時間だ。起きてくれ」


5月6日 フィル〔調教ゲーム〕

 むくりという感じでエリックとジルが目を開いた。

「誰を噛む?」

 ぼくはふたりのジェスチャーを見て吹きそうになった。意訳するとこんな感じだ。

エリック(ロビンを噛もう)

ジル(ばか。ロビンは狂人だ)

(なんで)

(アホ。狼は二匹。おれ、おまえ)

(うん)

(キース、ない)

(!)

(キースを名指した時点でこいつはウソつきだ)

(おう……)

(アンディでも噛んでおけ)

(了解)

「日が昇ってきた。おはよう。わんわん村の広場にまたひとつ死体が出た。かわいそうに。アンディが死んだ」


5月7日 フィル〔調教ゲーム〕

 ミハイルが聞く。

「霊媒はエリックか。――刑死者はどっちだった」

「キースは人狼だった。一匹あがったな」

「……てことは、ロビンの託宣は本物だったか。彼が占い師でいいんだな」

 リアンがロビンに聞く。

「今日の占い結果は?」

「ジルだ。シロだった」

「ふーん」

 チラとジルを見る。
 あの、とヒロが挙手した。

「実はおれが霊媒なんだ」

「!」

「キースは人間だったよ」

 ロビンは言った。

「いや、キースは人狼だった。エリックも証明している」


5月8日 フィル〔調教ゲーム〕〕

 霊媒ヒロは言った。

「キースは人間。だから、おれから見ると、人狼と言ったロビンと証明したエリックは、村の敵ということになる」

 ミハイルが眉をしかめ考え込んでいる。ジルも「どっちか吊るか」とあごを撫でた。
 エリックは不快そうに、

「いや、ロビンは人狼を当てて、おれはそれを証明したんだよ? ヒロはなんの証明もしてないよな。嘘つきは――」

 おれが保証する、とリアンが笑った。

「おれが真の占い師だ。エリック、おまえは人狼だよ」


5月9日 フィル〔調教ゲーム〕

 ロビンが首を振った。

「おれ以外の占い師はありえない。ヒロの嘘をフォローするためにもう一匹出てきたな」

 ねえ、とコスタがミハイルをつつく。

「どっちが狼なんだ?」

「自分で考えろ」

 ミハイルは言ったが、

「エリックがちょっと怪しい」

「なぜ」

「ロビンのカバーをしているように感じる。出るのが早かった」

「どういうこと?」

「霊媒だって狙われるのにすぐ出てきた。狼が怖くないようだ」

「……」

 ジルが言った。

「反論は? なければ吊るぞ」

「おれは霊媒だって! な、ロビン」

 タイマーが鳴った。

5月10日 フィル〔調教ゲーム〕

 投票の結果、エリックは処刑された。
 ジルはちゃっかり、仲間の処刑に投票していた。

「はい。夜が来ました。寝ましょう。霊媒だけ起きてくれ」

 ヒロが目覚める。

「死んだエリックは」

 『人狼』のカード。

「……でした。では寝て。――続いて狩人」

 コスタが目を開けた。

「誰を守る?」

 彼はロビンにした。

(……)

 信じたいらしい。

「了解。寝て。――占い師。起きて」

 リアンはミハイルを指した。
 ぼくは『人間』の札を見せた。

「はい。眠って。次、人狼たち」

 ジルがひとり憮然と目をあけた。


5月11日 フィル〔調教ゲーム〕

「人狼、誰を噛む?」

 テーブルから離れたエリックが殴るマネをしていた。
 ジルはリアンを睨んでいたが、結局、霊媒ヒロを指さし、目をとじた。

「わんわん村に朝が来ました。広場には、気の毒なヒロの死骸が転がっています。さあ、推理して、人狼を吊ってくれ」

 ロビンとリアン、ミハイル、ジル、コスタが残っていた。
 占い師リアンが言った。

「ミハイルは白だった」

 占い師ロビンが言う。

「コスタは黒だ」

 コスタがショックを受けたようにロビンを見た。

「なんだと」

「人狼だ。間違いない」


5月12日 フィル〔調教ゲーム〕

 ロビンは言った。

「コスタを吊れば、この村は救われる」

「そうかな」

 リアンが言った。

「今日、ヒロが噛まれたのは、なんでだ?」

「そりゃ霊媒は人狼の敵だからだろ」

「エリックの正体を暴かれると困るからだろ」

 リアンが笑った。

「エリック、ロビンの猿芝居が暴かれたら困る」

「――なにを」

「ロビン、おまえが人狼か狂人かわからなかったが、今ここで霊媒を称したやつが噛まれた。占いのおれを噛まずに。つまり死骸を暴かれたくねえってことだ。刑死したエリックは人狼だったんだじゃねえのか」


5月13日 フィル〔調教ゲーム〕

「よって、ロビン、おまえはたぶん狂人だ。狼二匹が目立っているとは考えにくいからな」

「……」

 リアンは言った。

「コスタが黒というのもウソ。ミハイルもおれが白と判定してる。つまり、残っている人狼は――ジルだろ」

「……」

 ジルはにがい顔で言った。

「……おまえが口先三寸で急場をしのごうとしてる人狼じゃねえと言えるのか」

 コスタがわめいた。

「言えるさ。おれは人狼じゃない。狩人だ。ちくしょう、ずっとロビンを守ってたのによ!」

 タイムアップとなった。


5月14日 フィル〔調教ゲーム〕

 ミハイル、コスタ、リアンが投票し、ジルが吊られた。

「おめでとう。わんわん村は人狼の脅威をしりぞけた」

 ロビンとエリックは奇声をあげて悶えた。ロビンがわめく。

「ごめーん!おれが悪かったー!」

「ばかばかばか」

 エリックは彼の頭にヘッドロックをかけ、叩くマネをした。

「おめえもだよ」

 ジルが鼻にしわをよせた。

「信用ボロカスだったじゃねえか」

「おまえだって、もぐってただけだろうが。それにおまえおれを死刑にしたよな?」

 ジルはうるせえ、とわめいた。

「次だ! 次は勝つ!」


5月15日 フィル〔調教ゲーム〕

 ライアンが通りかかったので、彼も加えることにした。
 ぼくは皆に頼んだ。

「次はぼくもやりたい。誰かゲームマスター代わってくれ」

 やる、とミハイルが申し出た。

「そっちからゲームを見たいしな」

 アンディがしょんぼりと言った。

「なんか、うまくしゃべれない」

 おれも、とキース。

「それね」

 ロビンが快活に教えた。

「話し方変えるといいぞ。ナマってしゃべるとか」

 ヒロが唸った。

「英語の訛りって扱いづらいな」

「じゃ、オネエでも猫語でもいいよ。みんななんか訛りつけようぜ」


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